インバウンド対応における誤解とその対応についての考察(寄稿)
このたび『企業診断ニュース』2025年11月号の特集記事にて、インバウンド対応に関する寄稿を行いました。私は英語圏の訪日客を案内する全国通訳案内士としての経験と、中小企業診断士として日々伴走支援させていただいている実務の両面から、中小事業者に多く見られる“誤解”を整理し、その背景と対応の考え方を「彼らを知り己を知れば商売殆うからず ――インバウンド対応支援における誤解と対応例」というタイトルでまとめました。京都府中小企業診断協会の岩崎弘之先生・西河豊治先生の記事とともに、日本中小企業診断士協会連合会のホームページで無料公開されています。
https://www.shindannews.jp/books/2025/11/index.html#target/page_no=1
以下に概要をまとめておきますので、是非本文と他の診断士の記事もあわせて読んでみてください!
目次
誤解1:京都はオーバーツーリズムでも、地元にはインバウンドが来ない
まず、京都で叫ばれるオーバーツーリズムについては、混雑が極端な地点や時間帯が注目される一方で、実際には観光客が集中していない地域・時間も多く存在します。さらに、アメリカ・オーストラリア・中国からの訪日客の3分の1が「初訪日」であることを踏まえると、今後はリピーター化が進み、これまで観光客が少なかった地域へも回遊が広がる可能性があります。地域の事業者は行政やDMOと協力し、自店や地域の魅力を計画的に発信していく必要があります。
誤解2:インバウンドはマナーが悪い
次に、「インバウンドはマナーが悪い」という印象については、文化・習慣の違いを背景とした行動が誤解されているケースが多いことを指摘しています。歩き食いやゴミの扱いなど、日本とは常識が異なる国は多く、悪意があるわけではありません。重要なのは、丁寧な掲示や穏やかな声掛けで日本のマナーを説明し、顧客が不快にならない形で案内することです。
誤解3:インバウンドは高くても買う
「インバウンドは高くても買う」という期待も誤解で、基本的には「誰に・何を・どのように売るか」という事業戦略が欠かせません。ブランディングやストーリー、商品の魅力をどう伝えるかが購買の決め手になります。
誤解4:キャッシュレスは現金より面倒な上に手数料が高い
また、「キャッシュレスは手数料が高く面倒」という考えも再検討が必要です。現在は手数料が下がり、売上機会拡大・客単価向上といったメリットが大きく、特にVISAやMastercardのタッチ決済対応は最低限必要です。顧客層に応じて銀聯カードやAlipay対応を検討し、必要に応じて補助金の活用も有効です。
誤解5:生成AIで翻訳が楽勝
さらに、翻訳をAIに任せれば十分という認識も誤りで、日本語メニューの単なる直訳ではなく、飲食における文化差・アレルギー・宗教的禁忌に配慮した情報提供が不可欠です。おすすめメニューを写真と食材を添えて英語化するだけでも大きな効果があります。
誤解6:英語や中国語ができるスタッフを雇えないのでインバウンド接客が困難
最後に、「語学ができないとインバウンド対応は無理」という思い込みについては、最も重要なのは語学力そのものではなく、笑顔で接し、翻訳アプリなどを使いながら理解しようとする姿勢であると強調しています。実際の調査でも、この姿勢が顧客満足を大きく高める結果が示されています。
以上のように、インバウンド対応には誤解が多く存在しますが、事実に基づき正しく理解すれば、中小事業者は大きな機会をつかむことができます。支援者や事業者が「彼らを知り、己を知る」という姿勢を持ち、実践的な工夫を積み重ねることが重要であると締めくくっています。
ご商売やご支援でのインバウンド対応のご参考にしていただけましたら幸いです。